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音楽の教科書やクラシックの入門書には載ってなさそうな作曲家の交響曲です.「定番」の方に入れるかどうか迷った場合もこちらにしました.CDが出てるだけでも大勢いて,個人的には生涯掛かっても聴ききれないと思います.もちろん,あまり印象に残らない曲が多いのですが,たまに,定番の交響曲に劣らず好きになる曲に巡り会います.そんな自分だけの「隠れた名曲」を探すのも,クラシック音楽を聴く理由の一つです.
【イギリス】
作曲家の三枝成彰氏などによると,イギリスの音楽界は「遅れてきたロマン派」だそうで,ドイツやオーストリアでロマン派が廃れた20世紀になっても,結構聞きやすいロマン派的な作品をつくる作曲家が多数活躍しました.もっともこれは,イギリスに限らず音楽の都から遠い東欧や北欧でも同様かと思います.似たような話に,日本の方言周圏論というのがあります.これは,京言葉が同心円状に地方に伝播したため,京都から遠くに行くほど古い時代の京都の言葉が保存されているという説です.グローバル化が進んだ現代ではもはや起こりえない現象でしょう.
話をイギリスに戻すと,無調の現代音楽になじめない向きにとって,ロマン派的音楽を量産してくれたイギリスの作曲家はありがたい存在です.
ラッブラ,エドマンド
(1901–1986)
個人的にイギリス作曲家の中で最も好きな作曲家の一人です.11曲の交響曲を残しています.ロマン派といってもブラームス的な重厚なタイプに近く,言いたいことが伝わってくる感じがあります.私が持っているCDは,CHANDOSから出ているリチャード・ヒッコックス指揮の全集です.
交響曲第1番 作品44 約35分
全3楽章.第1楽章冒頭からいきなり高音で激しく始まるので落ち着かない印象ですが,途中から暗いながらもゆったりした聴きやすい曲調に変わります.第2楽章は管楽器が美しく,楽しげです.全体の半分以上を占める第3楽章は寂しい曲調で始まり,管楽器と弦楽器の掛け合いが美し中盤を経て次第に盛り,最後は勇壮な雰囲気で締めくくられます.
◎ 交響曲第2番 ニ長調 作品45 約34分
弦楽器のみで始まる冒頭からしてきれいです.どことなくシベリウスを思わせる,無駄をそぎおとした美を感じさせる佳曲だと思います.
つづく
【北欧】
北欧の交響曲作曲家というと,入門書的にはフィンランドのシベリウスか,せいぜいデンマークのニールセンが有名なくらいで,後はピアノ曲で有名なノルウェーのグリーグが出てくるくらいだと思います.しかし,北欧諸国はイギリス同様の「遅れてきたロマン派」や,現代音楽の作曲家を多数輩出しており,文化レベルの高さがうかがえます.日本人が勝手に想像しているだけかもしれませんが,森と海と雪の世界を思い起こさせる雄大かつ厳しい雰囲気のメロディーや,英雄譚にちなんだ勇壮なメロディーに引きつけられる北欧ファンは結構多いと思います.これらの特徴は,やはりシベリウスが打ち立てたものなのでしょう.
ラーション,ラーシュ=エリク
(1908–1986)
スウェーデンの作曲家.私がアメリカに滞在していたときにAmazon.comでたまたま買ったBISレーベルのCD(指揮 Hans-Peter Frank, 演奏 Helsingborg Symphony Orchestra)に,交響曲の第1番と第2番が収録されていました.ラーションの交響曲は第3番まであります.アルバン・ベルクに師事したそうですから,現代音楽的な作曲もできた人だと思いますが,交響曲はいずれも北欧的なロマンティックな響きが支配的です.
◎ 交響曲第2番 作品17 約36分
全3楽章.第1楽章冒頭でホルンが物憂げかつ高らかに鳴り,直後にオケが印象的な主題を奏でます.この主題が繰り返される第1楽章が聴き応えがあります.第2楽章は管楽器が歌い楽しげです.第3楽章で再び第1楽章の主題が帰って来るのが,工夫がないのか,聴衆へのサービスなのか,あるいは3楽章構成ゆえの統一感を図ったのか,よくわかりませんが,個人的にはお気に入りの1曲で,趣味としてはラッブラと並んで留学時代の最大の収穫です.
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